プロンプター
「ポーランドの人形遣い」の宮本充です。

先日、初めて「粗通し」をしました。
「粗通し」とは文字通り、粗い通し稽古のこと。
細部はまだ出来上がっていない段階で、一度、最初から最後まで通してみるのです。
そして全体を見て、再び細部の稽古に戻ります。
そうやって少しずつ「通し稽古」に近づいて行くのです。

この時期、とても大切な、そして大変な仕事があります。
プロンプター。
演技者が台詞を忘れた時に教える仕事。

この時期は、演技者もまだ台詞が完全には入っておらず、さらに台詞や動きやタイミングなどの細かい変更もあり、演技中に台詞が出てこないことが頻繁にあります。
特に「ポーランドの人形遣い」は台詞劇。
長台詞も多いのです。
プロンプターは、稽古中、台本を手にじっと演技者を見ながら、台詞が止まった時は、演技者の表情から、それが演技的な間なのか台詞を忘れたのかを瞬時に読み取り、忘れたと判断した場合はサッと自分の台本に目を移し、速やかにその箇所を伝えます。
大変な集中力が必要です。
プロンプターは無意識の内に、演技者と同じ呼吸をするようになります。

台詞の伝え方もまた難しいのです。
台詞を忘れた時、演技者はちょっとした緊張状態にあります。
その時に早口で教えても、演技者の耳には入りません。
優しく、丁寧に、そして簡潔に。
簡潔にといっても、例えば、「おお、憎まずにいられるものか。この町のお歴々が三人、親しく奴に会って、この俺を副官にと頭を下げて頼んでいるのだ」という台詞を演技者が忘れたとすると、台詞の頭の部分の「おお、」だけを伝えても演技者は台詞を思い出せない場合があります。
「おお、憎まずに…」までを、その次の言葉を促すように伝えると、演技者は自然に「…いられるものか。この町のお歴々が…」と、次の台詞が出て来るのです。

プロンプターにはある種のセンスも必要なのです。
そして瞬発力も。
さらに、それらを持続する体力も。

僕も若い頃にプロンプターをやりましたが、稽古中ずっと集中力を持続するのは大変でした。
先輩達が完全に台詞を覚えていてプロンプターの必要がない場面は、ひそかに緊張を解ける「息継ぎタイム」でした。
でも、プロンプターはとても勉強になりました。
演じている先輩と同じ呼吸で、テンポ、ブレスの位置、強弱などを体感できるのですから。特にシェイクスピアの長台詞は本当に勉強になりました。



数日前の稽古の写真。
彼はプロンプターの遠藤鮎喜。
(現在昴には遠藤が三人になりました。遠藤英恵、遠藤純一、遠藤鮎喜)
今年、研修生になったばかりのピカピカの一年生。
集中している横顔をこっそり撮ろうと稽古場の陰からカメラを向けたところ…
こら、こっち見るな!
彼もきっと「息継ぎタイム」だったのでしょう。

ちなみに遠藤(鮎)はシェイクスピア好きとのこと。
何かやりたい芝居があるか聞いてみました。

「『ヘンリー4世』です!」
渋いね~。役は?
「ハル王子がやりたいです!」
頑張れ!
「ホットスパーもやりたいです!」
ちょっとキャラが違うかな…
「フォルスタッフもやりたいです!」
全然、違うよ!


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