『フィールド・オブ・ドリームス』とシェイクスピア
フィンバー役の岩田翼です

17日間の公演期間も半ばの休演日に、気分転換のために、家のテレビに録画してあったケビン・コスナー主演の映画『フィールド・オブ・ドリームス』を観ました。(ネタバレあり)もう上映されてから30年も経つ映画ですが、映画のロケ地であるアイオワ州のトウモロコシ畑の中の小さな野球場のすぐ隣に今年、メジャーリーグの試合ができる設備を備えた野球場を特設。一夜限りでニューヨーク・ヤンキースとシカゴ・ホワイトソックスの試合が行われたという映像をニュースで見て、どうしてももう一度映画を観たくなりました。試合の前には30年前の映画の主演のケビン・コスナー氏が登場して名セリフ「Is this heaven?」を披露したり、現代の選手たちが映画さながらにトウモロコシ畑から歩いて出てきたり、それはそれは感動的でした

映画は昔観た記憶はあるもののほとんど内容を忘れていました。今、僕が出演中の『堰』とは全く関係ない映画ですが、あえてそういう作品に触れることで心の栄養と刺激をもらおうと思って休演日に観るのに選んだ作品でした

が、始まった途端、出てきたセリフが「父親はアイルランド系なんだ」というもの。『堰』の舞台はアイルランド。しかも僕が演じるフィンバーは父親との関係が役に大きな影響を与えています。「むむ、これは・・・」と思いましたが、まあ、アメリカにはアイルランド系の人も多いからね、よくあることだとスルー。しかし続いての映画のセリフが「禁煙して18年」。『堰』のフィンバーも禁煙して18年!なかなかの偶然だわ・・・

そのまま観すすめてたくさん感動して観終えたのですが、この作品って良く考えたら、メジャーリーグを悲しい八百長疑惑で追放されたホワイトソックスの往年の選手たちが幽霊となって再び登場し、夢の再試合を果たすというストーリーなんですよね。ほぼ幽霊が主役。『堰』もテーマはほぼ幽霊・・・

というわけで、芝居から離れて気分転換しようとしたつもりが、どっぷりと同様の世界に浸ってしまいましたとさ、というお話でした。ちゃんちゃん

でも改めて観ても本当に素敵な作品なので心の栄養と刺激はたっぷりといただきました

ちなみにダース・ベイダーの声を担当されているジェームズ・アール・ジョーンズ氏も出演されていて、その声にも惚れ惚れ。『スター・ウォーズ』マニアとしてはたまらん!



話は変わって、前回ブログ担当の平林さんと前々回の永井さんに続き、役作りについて

『堰』で僕が演じるフィンバーは地方の成金実業家で、うるさくて、イヤミで、故郷のみんなからは煙たがられる存在なので、ほぼほぼ僕自身ではないと思っているのですが、考えるとですね、僕が昴で演じてきた役って、金を持ってて威張ってて時にちょっとおバカってのがとても多いんですよ。あれ!?おれってそういうイメージなの?誰か教えて~。でもお金はそんなに持ってないのは確かなんだけどな

まあそれは置いといて、フィンバーは人物の背景の情報量がとにかく膨大なのです。生まれ育ちや、過去と現在の暮らしぶりが波瀾に満ちていることに加え、それ以外にも、セリフにだけ出てくる具体的な人物がざっと20人以上。その中にはかなり濃密に関わっていそうな人物も多いので、そのへんの人々との関係や役への影響を想像したり創造したりすることにかなりの時間を費やしました。稽古中の新たな発見によりそういう人との関係の想定を変更することもしばしば

で、稽古中にもそういう作業が延々と続いていたのですが、それでも、何で突然こんなセリフを言い出すのか理解できない、難問といえる箇所もいくつか。そのうちの一つ、ちょっとネタバレですけど、何で急にスープストックやシチュー鍋の話をし出すのかが超謎でした。まあレストランとホテルを経営してるから不思議は無いのですが、話の出し方が何か唐突で違和感が。しかも近いタイミングで2回出す。考えてもわからないので、まあいいかと放置していたのですが、ある日突然、閃いたのです。こりゃシェイクスピアの「マクベス」だと

ぐつぐつ煮立つ鍋を囲む三人の魔女にそそのかされ父親同然に慕う王を殺し、その亡霊と罪悪感に追い詰められるマクベス。一方『堰』ではフィンバーの家の隣に引っ越してきた三人の娘たち。スープとシチューの大鍋。そして幽霊に怯えるフィンバー

台本では、フィンバーは偉大な父親を尊敬していたようにも読み取れますが、父への対抗意識が垣間見えるセリフもあり、もしやフィンバーもプレッシャーから父を階段から突き落として・・・、なんて想像も。あの日から18年と即答できるのは時効を待っているのかとか。だとしたら隣に引っ越してきた娘たちの父親が警察官だったことにさぞやドキドキしたろうなとか、その父親がシャーロック・ホームズやロンドン警視庁の警部ほど有能な人物ではなく凡庸な巡査であることに少しホッとしたろうなとか想像がふくらみます。そしてフィンバーの苗字は「マック」。マックとマクベス。名前によく使われる字ではありますがどちらもMac。

『堰』の作者はアイルランド人。お隣イギリスの超有名な劇作家シェイクスピアの作品には当然親しんでいたことでしょう。単なる作者の遊び心とも考えられますが、多少なりとも意識していたことは確かなんじゃないかなぁ

まあマクベスと同じ設定をどこまでフィンバーに採用するかは僕の匙加減で良い加減に。いただけるものはいただいて放棄するものは放棄。まだご覧になっていない方はぜひ舞台を観て確かめてみて下さい

だとしたら当然、他の登場人物にもそんな風にあてはまる人物はいないのかという疑問が。そしていたのです。これはジャック役の永井さんが気づいて教えて下さったのですが、ジャックの終晩のセリフの中に「デンマークかノルウェーか」というものがあります。シェイクスピア作品で主人公がデンマーク王子であり、最後はその地をノルウェー王が征服する作品といえば、そう『ハムレット』。そしてジャックの苗字は「ムレン」。ね、面白いですね。そしてハムレットと同様にジャックも若かりしころやるかやらないかでとても悩み苦しんだ

野心のために大それたことをやってしまって後悔と罪悪感と亡霊に悩まされるマクベスまたはフィンバー。やるかどうか迷いに迷ってそんな自分の不甲斐なさに自己嫌悪するハムレットまたはジャック。そんな対比も垣間見える奥深い作品なのです。
| 稽古場日記::The Weir ─堰─ | 11:07 | comments (x) | trackback (x) |

  
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